参考書籍<ブランディング>① アウトプットのスイッチ

「アウトプットのスイッチ」グッドデザインカンパニー代表 水野学は(朝日新聞出版)は、アートディレクター水野学さんにより書かれた、ブランディングやアートディレクションの実践的な解説書で、広告やブランディングに携わる人には非常に参考になる一冊だ。

ここでは本書の中で私が参考にしたい箇所をメモ代わりに記載させていただくが、本書の中では、水野さんの手がけてきた仕事内容を実例として挙げながら、より詳しくわかりやすく書かれているので、興味のある方は是非、本書を読んでみてほしい。

 

マーケティングに関して

この本ではマーケティングの古典とされるマズローの理論にも触れながら現代の消費傾向にも言及している。

 

マズロー欲求段階説

第1段階 生理的欲求
第2段階 安全の欲求
第3段階 所属の欲求
第4段階 承認の欲求
第5段階 自己実現の欲求
第6段階 コミュニティ発展欲求

「みんなと同じものを所有して安心したい」という気持ちは、このマズロー欲求段階説においては第3段階であり、そういう人は今の日本にはもういない。

そして、高価なブランド品を身につけて一目置かれたい「いいね」「うらやましい」と言われたいという第4段階 承認の欲求も卒業しつつある。

つまり、今の(今後の)日本で大切なのは「人から称賛されるかどうか」ではなく「自分がどうあるか」になりつつある。

(たしかにその段階にある人も増えつつあるとは思うが、第4段階にある人もまだまだ多いと自分は思う。)

また、第5段階の人が消費に際して考えるのは、「この商品を持つことで、私は自分らしい自分になれるかしら」ということで、その傾向により昔のような大ヒット商品が生まれにくくなっているのだという。

 

本書ではそんな状況に対して、旭山動物園の成功事例などを元に、それでもアウトプットの質を高めることで、状況を打破することができると説いている。

 

そしてさらに、「エコ」や「エシカル」といったように、「地域社会、企業や国家、ひいては地球など、自分が所属するコミュニティ全体の発展を望む欲求」で、マズローが晩年に提唱した第6段階 コミュニティ発展欲求が垣間見られるようになってきていることに触れながら、消費者が企業の「思い」や「大義」までもを見るようになっていると言及している。

 

売れるをつくる3原則

「ブーム」をつくる。
「ブランド」をつくる。
「発明」する。

世の中のほとんどの人が作りだそうとしている“売れる”はすでにあるモノの中に潜んでいるはずなので、発見といっても新しいものを作りだすというよりは、ありそうでなかったものを見つけ出すようなイメージ。

 

ブランディングに関して

この本の中で著者はブランドを作る要因として下記の2つを上げている。

 

【1】「品質」「価格」「デザイン」「パッケージ」「広告」(webやリーフ等も含む)といった意識的なアウトプット。

【2】発信している人や会社が内包している、無意識のアウトプット。

 

本書の言葉ではなく、自分なりにブランディングを解釈すると、

①とは、企業から発信するすべての商品・デザイン・情報の細部に至るまでクオリティやトーンを管理をすることで受け手のマインドにイメージが作られるということ。

そして、②では、企業やブランドの姿勢や理念、伝統、コンセプト、考え方、立ち振る舞いなどから、受け手のマインドにイメージが作られるということ。

その2つの方向性からできたその企業や商品に対する消費者のイメージがブランドになる。

つまり、「その2つの方向性(アプローチ)から消費者のマインドにイメージを形成すること」がブランディングと言うことなのだと思う。

それは様々な要素の積み重ねによって構築されるものであり、そのためにもまずは、「自分たちはどんなブランドでありたいか」を明文化しておくことが、ブランディングの第一歩。

 

アウトプットを高める方法

市場が飽和、産業技術の頭打ちと言われる時代に“モノを売る”という立場に立ったとき、僕たちはアウトプットに徹底的にこだわる必要がある。見え方の重要性をもっと強く認識する必要がある。

アウトプットを高めるためには、その商品の本質を突き、どちらの方向に魅力を伸ばすのが良いかを見極めるのが第一段階。この段階において、商品にどんな魅力が隠れているのかを徹底的に洗い出すことが必要。

そして第二段階としては、その商品なりサービスなりの目指すべき方向を見つけること。その商品やブランドのどの部分を大切にしてアウトプットすればいいかという、大枠を作りだす。

 

本質を見極め、最終的なアウトプットに落とし込むまでの流れ

「~っぽい分析」
本質を見極めるためにまずすべきことは長所さがし。その商品の本質にある一番いい部分を抽出すること。しかし、あらゆる可能性があり過ぎて、迷ってしまうという面もある。まして、商品について熟知しているはずのつくり手は、商品との距離が近すぎるために、その商品がどんなものか、逆にわからなくなっていることもある。そのため、長所と思っていることが商品の本質とかい離していることも少なくない。

しかしながら、“売れる”を作りだすためには、原点に立ち戻り、商品の巣の状態を見つめてみること。その上で、本質から最大の長所を引き出すこと。この原則を忘れてはならない。

そこで、「ポジティブな言葉」でその商品を表現しながら「ポジティブ分類」をしてみるとよい。

注意すべきは商品や製品の特徴を羅列することではなく、本質を見つけるということ。その商品らしさ、その製品らしさを探し出す必要があるということ。

そのためには擬人化して考えてみるなども有効。

例えば「靴下」であれば、「温かで、謙虚で、誠実」とか。

そんな風にポジティブ分類ができたら、次により具体的に「~っぽい分類」を行う。

「色だったら、何色っぽい」
「動物だったら、何っぽい」
「国だったら、どこの国っぽい」
「人物だったら、誰っぽい」

色、図形、素材、感触、花、車、雑誌などなど、様々な方向から「~っぽいか」のイメージを膨らませることで、その商品の輪郭がクリアになってくる。

ここまでは感覚的に時間をかけることなく瞬時に行う。

また、そのイメージに照らし合わせながら、商品にあったシズルが表現できているかを俯瞰するのも効果的だ。

 

「思い」と「ブランド」に立ち返る

第一段階で、その商品らしさの輪郭が見えてきたら、アウトプットの質を高める第2段階「その商品らしさの方向性を見つける」作業を行う。

この作業には「思い」や「ブランド」が影響してくるため、明文化した「自分たちはどんなブランドでありたいか」や「その商品に込めた思い」に一度立ち戻る。

そのブランド性と第一段階で見えてきたその商品が持つ本質的な魅力を考え合わせながら、どの方向でアウトプットをしていくか、方向性を見極めていく。

 

最終的なアウトプットに落とし込む

方向性が絞られたところで、第3段階「アウトプットの質を高める」に入る。

絞り込んだ方向性において製品自体がこだわる部分を徹底的にこだわって伸ばす。そしてロゴやロゴマークもその方向性でブラッシュアップし、コピーやパッケージ表g点なども、その方向性に合わせて徹底的に吟味し洗練させていく。

色、書体、コピー、紙質など、人との接点となるアウトプットの部分を徹底的に磨き上げることで、商品の魅力が最大限に伝わるように工夫していく。

 

アウトプットのタガを外す重要性

業界のなかにおけるイメージとソーシャルコンセンサスは異なるケースも多い。例えばそもそも高価なジュエリーの分野において、業界の中で低価格であっても、一般の人に対しては高価な商品もある。そんな商品を「安い」路線で打ち出しても、その商品のシズルは感じられず、共感を得ることは難しい。

そんなときにも「~っぽい分析」を行ってみると、その商品の持っている本質的な魅力を俯瞰して確認することができる場合多い。

 

アウトプットにおけるアートディレクターの役割

アウトプットにおいてアートディレクターの役割はスタイリストに似ている。

「本質を見極めることで、本当にその人(=商品やサービス)に似合う洋服を選び出し、ちょっとおめかしさせてあげて、ふさわしいシズルを感じさせ、世に送り出す」

ここに無理や嘘があってはいけない。似合わない服は着せず、厚化粧で別の顔にしたりもしない。時にはオシャレをさせず、こざっぱりと清潔にするだけでいいこともあるという前提で、モノやサービスの本質に集約されたいろいろな“思い”を汲み取り、過不足なくアウトプットしていく。

その際に、“”売れる”ためには、時代のシズルも鑑みることが必要。その時代が何を求めているか、本質を損なわずにそのニーズを応えるアウトプットをするにはどうすればいいかを考えていく。

 

本質をシズルを見極める方法① 消去法で検証する

いろいろなイメージがでてきて、どれが答えなのか見えないような場合には、「~っぽい分析」の応用的な方法で、「~っぽくない」を排除しながら消去法で答えに近づくことも有効。

 

本質とシズルを見極める方法② 目立たなかった長所を引き出す

その商品の本質とシズルを見極めるためには「目立たなかった長所を引き出す」と言うことも有効。

例えば東京ミッドタウンは「日本の心を継ぐ、おもてなしの街」というコンセプトだったが、当時目立っていなかった「公園の魅力」を引き出すことでより本質に近いアウトプットが可能になった。

アウトプットにおいては時代のシズルを考慮することも大切で、当時の東京ミッドタウンに「公園の魅力」と言う方向性が出てきたのは時代のシズルとの関連性も大きい。

 

 アウトプットの精度を高めるプロセス

言葉を信じすぎない
日常の中にはさまざまなバイアスがかかっているので、あまり言葉を信じすぎると本質を見誤ることもある。

例えば一寸法師と聞いて人はお茶碗位(10センチくらい)のサイズの小人を想像するが、一寸とは3センチ。これはよくあるお茶碗から顔を出した一寸法師のイラストにとらわれているからに他ならない。

同様にテレビで言っていた話、何となく世の中的にそうだと思われていること、消費者の言葉などは、実際に検討してみると具体的なようであいまいなことも多く、その鳥羽が出た背景や状況や心理などをきちんと検証せずに、その言葉に引っ張られると本質を見誤る元となりかねないので注意が必要。

情報の整理
消費者の声などを活かしながら情報を整理するには下記の3ステップが有効。

情報の整理① 散らかす
情報の整理② “いる/いらない”に分類する
情報の整理③ 優先順位を付ける

まず、情報(メモや資料)をランダムに(机の上や床に広げる形で)挙げていく。

次にその情報をいるものといらないものに分類する。その際に注意するのが数値やデータの客観的な意見だけに頼らないこと。数の理論や言葉の説得力にとらわれることなく、「いる・いらない」という意見の『理由』を考え、それがどんな背景や状況で出てきた意見なのかを検討しながら、慎重にいる。いらないを判断する。このクオリティが重要となる。

そしていらないものを精査し排除したら、“いるもの”に順位を付けてアウトプットしていく。

その段階で「あっちを取るかこっちを取るか」的な迷いが生じるときに、オルタナティブ的な着地点を見つけることができると、それが「ありそうでなかった」答えになることもある。

 

多様なアウトプットのための舞台づくり

会社や商品のアウトプットには、ブランドが確立されているものと、ブランドのビルドアップが曖昧なためにブランド自体が揺らいでいるものがある。

当初のブランディングで作った言葉だけが独り歩きしていないか?商品だけが独り歩きしていいないか?

このチェックを常に行うことが重要で、それを怠ると会社のブランドも商品の売り上げも低迷するが、そのような状態の会社は実際にはかなり多い。